現実と重なり合いながら、相反するように離れていく世界。
親しき隣人にして、許されざる仇。
憐れみと共に差し出された右手、憎悪を孕んでナイフを握り締める左手。
笑みを持って助け起こし、嘲りを以って切り刻む。
――――すなわち人と怪異。互いに理解の及ばぬ存在。
桜は咲く。艶やかに、華やかに。
それは血のイロ。より鮮やかに色づく為、より美しく咲き狂う為、
根は埋まる哀色――ヒイロ――を吸い上げる。
それを愛でるは人のエゴ。所詮人はヒトにしか共感できない。
―――美しさを見出せない。
桜は人の情念そのもの。
それ故……美しい、何よりも。
桜はただそこにあるだけ。
誰に請われることも無く、なにに捕らわれることも無く、ただ在り続ける。
その燐とした立ち姿に怪異は惹かれる。
怪異こそは在り続けるモノ。
規定も輪郭も意味すら無く。ただ、在り続ける。…桜の様に。
それ故…美しい、何よりも。
人は(怪異は)怪異(人を)を知る。友人であり、敵であり、無関係に在るモノだから。
怪異より(人より)深く怪異を(人を)知る。
怪異は(人は)人を(怪異を)知らない。友人であり、敵であり、無関係に在るものだから。
怪異は(人は)人に(怪異に)気付く事すらない。
人と怪異の差は。
見えないか、見えるか。見たくないか、見たいか。
無いのか、在るのか。
――――――それだけだ。
――――――――それ故に、アイマミエルコトは、ない。
けれど。
何よりも、誰よりも美しい――疎ましい――桜は、現実と非現実を結びつける。
だから。
私は桜を幻視する。
桜はどこにでも在る。想いを色を吸って、咲き誇り続ける。
ほら、そこには。
人でありながら人以外のモノに心奪われた愚かなるモノ、
怪異でありながら存在を規定されまた自らの意味を見出いてしまった哀れなるモノ。
集いて宴を開くでしょう。
帰らないで、ここにいて。
呼ばれるままに、私はここに居る。
―――幻の桜の元、身を委ねる。
宴はまだ、始まったばかり。